遺言書の基礎知識・上級編
遺言は、いつするべきものか?
遺言は、死期が近づいてからするものと考えている人が多いですが、それは全くの誤解です。
人は、いつ何時、何があるかも分かりません。
判断能力があるうちは死期が近くなってもできますが、判断能力がなくなってしまえばもう遺言はできません。
遺言をしないうちに、判断能力がなくなったり、死んでしまっては後の祭りです。
ですから、遺言は、元気なうちに備えとして、いつ何があっても、
残された家族が困らないよう配慮するために、作成しておくべきものなのです。
ちなみに最近では、かなり若い人でも海外旅行へ行く前などに遺言書を作成する例も増えています。
遺言は、後に残される家族に対する最大の思いやりです。
ちなみに遺言は、満15歳以上になればいつでもできます。
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必ず遺言書を作成すべきケース
『特に遺言書を残したほうがいい人とは?』
遺言書を残さないと損をするケース
1.子供がいない人
子供がいない場合、法律の定めるところで相続が決まります。
これを法定相続といいますが、この場合、夫の財産を妻が4分の3、夫に兄弟がいれば
兄弟が4分の1の割合で分けることになります。
しかし、長年連れ添った妻に全部相続させたいと考えるなら遺言書が絶対に必要です。
兄弟には遺留分がないので、遺言さえしておけば妻である配偶者にすべて
残すことができます。
2.再婚して、先妻の子と後妻がいる人
こういった場合が一番もめるパターンです。とにかく感情的になりやすいので、遺言で
はっきりと決めておくことが、遺産争いの発生を未然に防ぐことになります。
3.長男の嫁に財産を分けてやりたい人
長男の死亡後,その妻が亡き夫の親の世話をしているような場合です。
いくら嫁にも財産を残したいと考えても、嫁は相続人ではありませんから、遺言で嫁にも財産を遺贈すると定めておかなければ、お嫁さんは何ももらえないことになってしまいます。
4.内縁の妻がいる人
長年夫婦として連れ添ってきたとしても、婚姻届けを出していない場合には、いわゆる内縁の夫婦となり、妻に相続権がありません。
したがって,内縁の妻に財産を残してあげたい場合には、必ず遺言をしておかなければなりません。
5.個人で事業を経営したり、農業をいとなんでいる人
事業の財産的基礎を複数の相続人に分割してしまうと、事業の継続が困難になると判断した場合です。
予測できる事態を避けるために、家業等を特定の者に承継させたい場合には、その旨をきちんと遺言で定めておく必要があります。
6.それぞれの相続人に、自分の意志で分けたい人
財産が不動産の場合だと、お金や預貯金と違って皆でわけることが不便になることもあります。
また、障害のある子に多く残したい、あるいは、世話になっている親孝行の子に特に多く残したい、孫に遺贈したいなどのように、財産の分け方を自分で決めたい場合には遺言をしておくことです。
7、相続人が全くいない場合
相続人がいない場合には、特別な事情がない限り遺産は国庫に帰属します。
このような場合に、特別世話になった人に遺贈したいとか、お寺や教会、社会福祉関係の団体、自然保護団体、あるいは、ご自分が有意義と感じる各種の研究機関等に寄付したいなどと思われる場合には、その旨の遺言をしておく必要があります 。
遺産の種類・数量が多い場合など、遺産分割協議では、財産配分の割合では合意しても
(土地・株式・預貯金・現金など色々な種類の財産)、
誰が何を取得するかについてはなかなかまとまらないものです。
それに、法定相続人以外に財産を与えたい場合は、遺言書がなければ不可能と考えてください。
法定相続分と異なる配分をしたい場合にも、相続人それぞれの生活状況などに考慮した財産配分を指定
できますので、ご自身のおかれた家族関係や状況をよく頭に入れて、
それにふさわしい形で財産を承継させるように遺言をしておくことが、遺産争いを予防するために、必要なことであると言ってよいと思います。
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家庭裁判所の検認手続きとは?
公正証書遺言以外の遺言は、遺言書の変造・偽造を避けるため、遺言の執行前に、
家庭裁判所の「検認」を受けなければなりません。
家庭裁判所で、遺言書がどのように作成されているかを記録して調書を作成することを「検認」と言います。
「遺言が遺言者の真意であるかどうか」や、「遺言が有効であるかどうか」を審査する手続ではないのです。
また、遺言書の検認は、遺言書の存在を相続人ほかの利害関係人に知らさせる目的もあります。
遺言書(公正証書による遺言を除く)の保管者又はこれを発見した相続人は、
遺言者の死亡を知った後、遅滞なく遺言書を家庭裁判所に提出して、その「検認」を請求しなければなりません。
また、封印のある遺言書は、家庭裁判所で相続人等の立会いの上開封しなければならないことになっています。
「検認」を家庭裁判所に申し立てるときは、「遺言書の検認申立書」に必要事項を記入して、
遺言者の原戸籍謄本(抄本)・除籍謄本、そして申立人と相続人全員の戸籍謄本(抄本)を添付する必要があります。
「検認」がなくても遺言の効力に影響はありませんが、
検認を受けないで遺言を執行した場合には過料に処されるので注意しなければなりません。
申し立てに必要な費用
遺言書(封書の場合は封書)1通につき収入印紙800円
連絡用の郵便切手(申立てされる家庭裁判所へ確認してください)
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遺言執行者について
『遺言は執行されなければ意味がありません』
遺言書を作成しても、その内容を実現してもらえるとは限りません。
特に法定相続分と異なる配分を指定した場合や、相続人以外に遺産を与える内容の場合など、相続人が遺言執行に非協力的なケースが多く見受けられます。
そのようなときは遺言で遺言執行者を指定しておけば、その遺言執行者が遺言の内容を実現してくれます。
遺言執行者は相続人でも第三者でもなれますが、信頼できる相続人かあるいは行政書士などの専門家を指定しておくことが賢明です。
また遺言執行者の報酬についても、遺言で定めておくことが出来ます。
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よくある質問
遺言書に関するよくある質問をまとめました。
1.公正証書遺言を作成したいのですが、期間はどのくらいかかりますか?
公証役場での完成まで、通常1ヶ月程度の時間を頂いております。
2.一度書いた遺言は修正できるのですか?
できます。遺言は何度でも書き直しが可能です。
3.母が寝たきりで外出ができません。母に公正証書遺言を作成してもらうことは可能ですか?
可能です。公証人が自宅や病院に出張してくれます。
別途に公証人の出張費が加算されます。
ただし、遺言者に判断能力が備わっていることが前提となります。
4.亡くなった父の自筆の遺言書を発見したのですが、どうすればよいでしょうか?
家庭裁判所で遺言書を開封し、遺言書の検認を行う必要があります。
自分で開封せずに、速やかに遺言書の検認の申立てをしてください。
5.遺言書に書いた財産を生前に売却することはできるのですか?またその場合遺言の効力はどうなるのですか?
遺言書に書いた財産をどう処分するかは自由です。
第三者に売却することも当然できます。遺言書の効力は当該財産の記載部分のみが無効となり、他の部分は有効です。
6.遺言書を書くと税金がかかると聞いたのですが・・・。
全くの誤解です。遺言書を書いたからといって課税されることはありません。
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実際にあった争族の実例
遺言書がないと、どんな問題が起きるのでしょうか?
《代表的なケース》
1.配偶者が住む家を失った
2.配偶者の兄弟から財産を要求された
3.銀行からお金を引き出せない
4.相続手続きに時間がかかりすぎる
5.内縁関係の相手が財産をもらえない
以下で具体的なケースをいくつか見てみましょう。
① 妻が住む家を失った
ある70代の男性が亡くなり、妻と2人の子供が残されました。
男性は生前、妻に「俺が死んだらこの家はお前にあげるから、預貯金は子供たちと平等に分けてくれ」と言っていました。
しかし、長男夫婦は「どうせこれから私たちがお母さんと同居して面倒を見るんだから」と、自宅を長男の名義にするように要求し、妻はそれに応じました。
ところが数年後、長男の嫁との仲が悪化して、妻は追い出されるように家を出ました。
結婚した長女宅に身を寄せましたが、狭いマンション暮らしや反抗期の孫との関係にいたたまれなくなって再び家を出て、その後は友人の家に泊めてもらったり、ビジネスホテルを点々とするなど、落ち着かない日々を送っています。
預貯金も長男に取られてしまったため、老人ホームに入居することもできず、何とか年金で生活費をまかなっているという状況です。
妻は、「あの人は生前、財産を残すといってくれたのに、どうして遺言書を作ってくれなかったのか。
いつも口ばかりで本当に頼りにならない人だった」と、亡き夫を恨む毎日です。
② 夫の兄弟から財産を要求された
40代の女性が交通事故で夫を亡くしました。
子供がいなかったため、妻だけでなく夫の弟も相続人になりました(夫の両親はすでに死亡しています)。
夫は生前、弟とはほとんど交流がなかったので、妻は弟が相続分を放棄するものとばかり思っていました。
しかし数ヵ月後、弟の代理人と名乗る男がやってきて、弟には遺産の4分の1を相続する権利があると主張しました。
遺産と言っても財産のほとんどは不動産です。妻は要求分のために自宅を売らなければなりません。
③ 銀行からお金を引き出せない
60代の夫が亡くなった後、妻が生活費を下ろそうと銀行に行きました。
窓口で夫が亡くなったと告げると、行員はお悔やみを述べたあと、
「ご主人が亡くなったので口座は使えなくなります。お金を引き出すには相続人全員の同意書か、遺産分割協議書が必要です」といいました。
遺産分割協議のためには、相続人が全員揃わなければなりませんが、実は、この夫婦には数年前に家出して連絡のつかない長男がいます。
妻は、家庭裁判所で財産化離任を決めてもらえば相続手続きができると聞きましたが、手続きには数ヶ月かかるそうです。
すぐにお金を引き出せないことがわかって、妻は途方にくれてしまいました。
④ 相続手続きに時間がかかりすぎる
30代男性の話です。
母親の葬儀が終わったあと、弟と今後のことを話し合いました。
「とりあえず相続手続きをしなくちゃいけないな」と切り出すと、続けて弟がこう言いました。
「でもうちの財産って、いったいどれぐらいあるんだろう・・・?」
母親は、数年前に亡くなった夫の財産をすべて相続していましたが、その内容を子供たちはよく知りませんでした。
兄弟とも家を出ていたたため、母親がどの金融機関に口座を持っていたのかを突き止めるだけで一苦労です。
また、金融機関ごとに相続手続きの方法が異ったため、すべての手続きを終えるのに半年以上かかりました。
もし、兄弟仲が悪く話し合いがつかないともければ、もっと時間がかかったことでしょう。
すべての手続きが終わった後、弟がやれやれといった表情でこんな愚痴をこぼしました。
「全く、うちはサラリーマンなんだから、相続手続きにこんな時間をかけていられないんだよ。母さんも遺言書ぐらい残せばよかったのに、本当に迷惑だよな」
兄はは弟をたしなめながらも内心、「全くそのとおりだな」と同意しました。
⑤ 内縁関係の相手が財産をもらえない
数年前に妻を亡くした60代の男性が、ある女性と内縁関係になりました。
男性は、「もし自分に何かあっても、前妻との子供たちが面倒を見てくれるから大丈夫だろう」と考えていました。
しかし、男性の急死後、子供たちは女性にマンションを明け渡すように要求しました。
入籍していない女性に相続権はなく、子供たちともめたくないと思った女性は、涙ながらに出て行かざるをえませんでした。